年末調整の書類の中でも、特に複雑に感じる人が多いのが「基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼特定親族特別控除申告書兼所得金額調整控除申告書」です。
この書類では、必ず「本年中の合計所得金額の見積額」を記入する必要があります。しかし、多くの人がこう疑問に思います。
- 「給与所得だけなのに、なぜ“見積額”を書くのか?」
- 「給与は年末になれば確定するのだから、見積りの必要はないのでは?」
実はこの仕組みには、年末調整制度の前提と、会社側が知り得ない情報の存在が深く関係しています。この記事では、見積額を書く理由を制度面から整理し、給与のみの人・副業や事業を行う人、それぞれのケースでどう扱われるのかをわかりやすく解説します。
年末調整における合計所得金額の役割
まず大前提として、基礎控除や配偶者控除は “所得金額によって控除額が変動する制度” です。
例えば令和7年度の基礎控除は、税制改正により下記のように改正されました。(所得税のみ)
| 合計所得金額 | 改正後 | 令和9年以降 | 改正前 |
| 132万円以下 | 95万円 | 95万円 | 48万円 |
| 132万円超 336万円以下 | 88万円 | 58万円 | 48万円 |
| 336万円超 489万円以下 | 68万円 | 58万円 | 48万円 |
| 489万円超 655万円以下 | 63万円 | 58万円 | 48万円 |
| 655万円超 2,350万円以下 | 58万円 | 58万円 | 48万円 |
このように所得帯によって控除額が変わる以上、従業員の“合計所得金額”がいくらになる見込みなのかを把握しなければ、会社は年末調整で正しい控除額を計算することができません。
では、給与だけの人にも見積りが必要なのか?
本質的には「給与のみの人は見積りを書く必要はない」が正しいです。
なぜなら、給与所得は年末時点でほぼ確定し、会社側も年間給与額を把握できるからです。
しかし、制度上は「全員に対して見積り額を記入させる」運用になっています。
これは 会社が「給与以外の所得」を知り得ないため です。
会社は従業員について、給与以外の次のような収入を把握していない可能性があります。
- 副業(事業所得・雑所得)
- 不動産所得
- 株式・FX・暗号資産による収益
- その他の雑所得
もし給与以外に所得があれば、基礎控除・配偶者控除が適用できないケースが出てきます。
そのため国税庁は、出来る限り正しい金額で年末調整をするために「見積り額を書かせて自己申告させる」という方法を採用しています。
よって、給与だけの人にも“形式的には必須”
給与だけのケースでも、会社には他の所得の有無を確認する手段がないため、提出は必要という運用です。
ただし実務的には、給与のみの人の見積りは給与総額=実質確定値となるため、本来の見積りは不要と考えられます。
副業・事業所得がある人の場合
副業をしている人や、事業所得・不動産所得がある人は、見積額と実際の所得がずれることを前提とした仕組みになっています。
- 年末調整時点では「見込み」で申告
- 最終的な税額は 確定申告で調整する
年末調整はあくまで「給与所得者向けの簡易的な税額確定」であり、
複数の所得がある人は年末調整では完結しません。
副業がある人は、見積りがずれるのは当然で、正しくは確定申告で税額を確定させることになります。
ただし確定申告をするにしても、基礎控除が大幅にずれることは回避したいため、概算の基礎控除で年末調整を行います。
年末調整とは、最終的に何をしているのか?
年末調整は「簡易的な確定申告」と言われます。
主に次のことを行っています。
年末調整の内容
- 給与所得控除の確定
- 社会保険料控除、小規模共済等控除の反映
- 生命保険料・地震保険料などの各種控除の反映
- 基礎控除・配偶者控除などの適用判定
- 源泉徴収票の確定と税額の精算
ここでポイントとなるのは 基礎控除や配偶者控除は、所得額に応じて控除額が変動する という点です。
年末調整は毎年12月に実施されるため、
その時点で「当年の合計所得金額の見込み」を申告してもらい、
その情報に基づいて控除を適用します。
もし見積りがズレていたとしても、
事業所得などを持つ人は確定申告で税額が調整されるため、
制度として破綻はしません。
まとめ:なぜ見積額を書く必要があるのか?
記事内容を整理すると、次のようにまとめられます。
見積額を書く理由
- 基礎控除・配偶者控除は「所得額」で控除額が変わるため
- 会社は給与以外の所得を知り得ないため
- 従業員の申告がないと年末調整が成立しないため
給与のみの人の場合
- 本来は見積り不要だが、全員の副収入を会社は知り得ないため、制度上は必要
- 給与以外の所得がないのであれば、ほぼ確定値となる
副業・事業所得がある人
- 年末調整は“暫定処理”
- 最終的には確定申告で調整
年末調整で行うこと
- 各種控除の計算と源泉徴収税額の精算
- “簡易版の確定申告”としての役割
年末調整は分かりづらい制度ですが、その背景には「会社は従業員の他所得を把握できない」という大きな前提があります。
そのため、給与のみの人にも形式的に見積りを記入してもらい、控除判定の材料としています。
制度上の都合で給与所得のみの場合に手間が増えるため、やや不合理に感じられる部分もありますが、背景を理解すると仕方がない仕組みと考えられます。
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